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【娯楽映画の昭和・銀座と映画の街角】



戦前・戦中・戦後…
映画のなかの銀座


佐藤利明さん



 戦前から、銀座が舞台となる映画は数多く作られてきた。戦前のモダンな空気も、戦時中の辛い日々も、戦後の晴れがましさも、映画を通して感じ取ることができる。
 昭和14(1939)年に公開された、丹羽文雄原作、原節子主演の『東京の女性』(伏水修監督)は、今でいう女性映画。原節子扮するヒロインは、銀座の自動車会社で英文タイピストとして働いていたが、父の事業が失敗、生活のために志願してセールス・レディとなる。トップシーン。四丁目交差点の和光の屋上から、キャメラが銀座の風景を捉える。三越の屋上ではためく旗、数寄屋橋の朝日新聞社、アール・デコの日劇の王冠のような建物が一瞬映る。モノクロ画面ながら、昭和14年の東京の空の青さを感じ取ることができる。
 ショウルームには、ピカピカの外国車が並び、整備している社員たちはどこか晴れがましい。オフィスではセールスマン(柳谷寛)が昼食をとっているが、ナイフとフォークで出前のランチを楽しんでいる。
 全てがアメリカナイズされている。この映画の原節子は「女性の自立」を生き生きと演じ、颯爽とフォードを運転して東京の街を走り抜ける。
 しかし翌昭和15(1940)年に、原節子が主演した『二人の世界』(島津保次郎監督)は、一見メロドラマのようなタイトルで原節子と藤田進の淡い恋が描かれているものの、戦時体制に向けての軍需工場の技術者の苦悩がドラマの中核をなしている。舞台は銀座界隈。数寄屋橋から新橋にかけての外壕を歩くショットがある。現在のコリドー街は川の上だったことが、このヴィジュアルからわかる。ヒロインの実家は、銀座の洋食店だが、食材を手に入れるのも大変になり、カツレツを揚げるのも、昔のようにはいかなくなっている。
『東京の女性』から一年も経たないのに、『二人の世界』で描かれている銀座には戦争の影が忍び寄る。この映画の空は、少し淀んでいるようにも感じられる。東京大空襲のさなか、数寄屋橋で出会った春樹(佐田啓二)と真知子(岸惠子)のすれ違いを描く『君の名は』(1953年・大庭秀雄監督)は、言わずとしれたメロドラマの金字塔。原作はNHKで放送されていた劇作家・菊田一夫作のラジオドラマで「放送時間には女湯が空になる」というエピソードが宣伝に使われた。
 『君の名は』では、昭和20年5月の銀座空襲が描かれている。まだ戦争の記憶が生々しい戦後8年目に撮影されただけに、その迫力は相当なもの。空襲シーンは特撮の神様と呼ばれた円谷英二が手がけている。銀座の路地を逃げ惑う人々と特撮のカットバックは、昭和29(1954)年に円谷英二が特殊技術を手がける『ゴジラ』(本多猪四郎監督)でのゴジラ来襲を想起させる。その『ゴジラ』のパンフレットの表紙やスチール写真に、ゴジラと並んで森永キャラメルの広告塔「地球儀ネオン」の姿が見られる。映画でもゴジラは松坂屋を破壊し銀座和光の時計塔を壊すが、森永の「地球儀ネオン」は煌々と光を放ったまま破壊されることはない。
 昭和23年4月に完成したこのネオンサインは、数多くの映画に登場する。『忍術罷り通る』(53年・野村浩将監督)では、戦国時代からタイムスリップしてきた三好清海入道(花菱アチャコ)と猿飛佐助(横山エンタツ)の二人が、たどり着くのが、この「地球儀ネオン」の上だった。
 昭和20年代末から30年代にかけて、様々な映画に「地球儀ネオン」が登場するのは、映画会社とスポンサーのタイアップの成せる技だった。ゴジラはスポンサーに配慮して「地球儀ネオン」を壊さなかったのだ。
 映画で活写されている銀座を眺めていると、こうした時代の変遷と人々の有りようが見えてくる。やはり映画はタイムマシンなのである。


佐藤利明
Profile 娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー 1963年生まれ。構成作家・ラジオ・パーソナリティー。娯楽映画をテーマに、新聞連載、数多くの映画DVDの企画・解説などマルチに活躍中。「1969」(PinkMartini、由紀さおり)のスペシャル・アドヴァイザーをはじめ、エノケン、ロッパ、クレイジーキャッツなど、歌謡曲・ジャズ・サントラのCDをプロデュース。2015年文化放送特別賞受賞。著書に「クレイジー音楽大全 クレイジーキャッツ・サウンド・クロニクル」(シンコーミュージック エンタテイメント)など多数。



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